大判例

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東京高等裁判所 昭和36年(ネ)161号 判決

(一) 被控訴人が昭和二十九年二月中自動車ブローカー山本平次郎と称する者から、キヤデラツク一九五一年式普通自動車一台(以下本件自動車という)を買受け(売買契約の日時及び被控訴人の所有権取得時期については争がある)、右自動車につき同月十八日大阪陸運事務所において、被控訴人を所有者として道路運送車両法による新規登録がなされた。

(二) もともと本件自動車は非免税特権者である訴外山田克らが同年二月十日頃免税特権者たるアメリカ海軍々人テルス・ニコルソンから日本国内において譲り受けたもので、(山田克及びその仲間の者が山田克の名義で譲り受けたことは成立に争のない甲第一、二号証によつて認め得る)、日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条にもとずく行政協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律(以下臨時特例法という)第六条の適用を受ける物品、すなわち関税免除品であるから、これが譲受については同法第十二条により輸入免許を受け、かつ関税の納付を要するにかかわらず、右訴外人らは右通関手続を経ないでこれを譲り受け、山田克、影山輝一、山田リツら共謀の上、輸入証明書を偽造し、これを添付して大阪陸運事務所に本件自動車の新規登録を申請し、よつて前記のように被控訴人所有名義で新規登録がなされたものである。そして右山田克、影山輝一は右のような所為により本件自動車の関税三四万八八八〇円を逋脱したものであるとして、昭和三十二年八月九日東京地方裁判所で有罪(旧関税法第七五条第一項)の判決を受け、かつ本件自動車を没収することができない場合にあたるとして、同法第八三条第三項の規定により自動車の原価に相当する八七万二二八〇円を追徴(同法第八三条第三項)する旨の言渡を受けた。

(三) 控訴人東京税関長は、被控訴人が旧関税法(昭和二十九年法律第六一号による改正前の関税法)第八三条第四項に規定する「犯則当時の貨物の所有者」、すなわち山田克、影山輝一らの前記関税逋脱の罪を犯した当時における本件自動車の所有者であるとして、昭和三十三年六月三十日付で被控訴人に対し右自動車の関税三四万八八八〇円の賦課処分をし、これによる納税告知書がその頃被控訴人に到達した。被控訴人は右処分を不服とし同控訴人に審査の請求をしたが、請求を棄却する旨の決定を受けたので、更に控訴人大蔵大臣に訴願したけれども、同控訴人は昭和三十四年二月五日訴願を棄却する旨の裁決をし、同裁決書は同月十三日被控訴人に到達した。

二、本件の争点は要するに、訴外山田、影山らの前記反則当時、本件自動車が被控訴人の所有に属したかどうかの点であつて、このことは(1)被控訴人において本件自動車の所有権を取得した時期と、(2)右山田、影山らの犯した関税逋脱の罪が既遂となつた時期との関係によつてきまる問題である。

そこでまず右(1)の点につき按ずるに、成立に争のない甲第三号証、原審証人宮崎五郎の証言、原審における被控訴法人代表者佐野甚七本人尋問の結果を綜合すると次の事実が認められる。

被控訴人の代表者佐野甚七は昭和二十九年二月十五日頃本件自動車の持主と称する氏名不詳のブローカー二人の者から試乗ナンバーのついた本件自動車を見せられその買取方を勧められたので、かねて知合の訴外宮崎五郎に右自動車の性能を確かめさせた上、右ブローカーとの間に被控訴人の方で直ちに自動車本来の用法に従つて使用ができるよう登録手続をすませ、かつ制規の検査を経て検査証を持参し、かつその時の車の状態が今日の状態と変りなければ、代金二百二十万円で買受けるべき旨を約した。そしてその際右佐野甚七は、請われるままに右自動車の登録手続等に要する書類に押印してやつたのであるが、その後同月十九日の夕刻、売主の方から登録を了し、かつ検査も経た旨の申出があつたので、翌二十日に前記宮崎五郎を介して代金二百二十万円を支払い、代金領収者名義を「東京都大田区道塚町三九〇、山本平次郎」とする領収証の交付を受け、同時に本件自動車(車の状態は前に見た時と別に変りはなかつた)の引渡を受けた。右代金二百二十万円は、もちろん通関手続を了したものとしての値段であつて、当時右佐野甚七としては正規の通関手続を経て被控訴人名義に登録されたものと信じて疑わなかつたものである。

右の認定に徴すると、昭和二十九年二月十五日頃の前記売買契約は無条件のものではなく、被控訴人名義に登録を経ること、制規の検査に合格し検査証が与えられること及び引渡の時における車の状態が契約当時のそれと変りないことなどを効力発生の要件とした一種の停止条件付の契約であると共に本件自動車の所有権は被控訴人において代金を支払つたときに被控訴人に移転する約旨であつたものと解するのを相当とする。そうすると車の状態に別段の変りがなかつた本件の場合、前記売買契約は二月十八日に登録をなし、同月十九日に検査を経たことによつて、その効力を発生し、二月二十日代金支払と同時に被控訴人において本件自動車の所有権を取得したものと認めるべきである。

三、次に前示(2)の点、すなわち前記山田、影山らの関税逋脱の犯罪行為はいつ既遂となつたかの点であるが、この問題は要するに、本件自動車のような臨時特例法第六条の適用を受ける物品(関税免除品)を日本国内において免税特権者である合衆国軍人、軍属などから譲り受けた場合に、旧関税法第七五条第一項の関税逋脱罪は法律上いかなる要件を充足したときに成立するかの問題にほかならない。そしてこの問題について被控訴人は、原判決の見解と同じ見解、すなわち日本国内において合衆国軍人等から関税免除品を免税特権者以外の者が譲り受けるときは、一般外国貨物を輸入する場合と同様に、予め税関にこれを申告し関税を納付して譲受の免許を得べき建前であるから、譲受人が当初から関税を納める意思なく、税関に譲受の申告をしないで免税自動車を譲り受け引取つたときは、それだけで前示関税逋脱罪は成立し、その後に通関書類を偽造行使し、陸運事務所の係員をして新規登録をさせるというようなことは右犯罪の成立には関係がないと主張し、(この見解によると免税特権者から最初に譲り受けた者が反則者であると共に貨物の所有者であつて、反則者以外に「反則当時の貨物の所有者」の存することは殆んど考えられないわけである)一方控訴人は、当時本件のような日本国内にある免税自動車の譲受についての駐留軍側の手続関係からして予め輸入申告をしてその免許を得ることは実際上不可能な事情にあり、そのため税務官庁としても輸入免許を経ない譲受を無免許輸入(旧関税法第七六条)ないし関税逋脱(同法第七五条)として扱わず、合衆国軍隊の構成員等から直接譲り受けた者が譲受後輸入申告をした場合はもとより、その以後の譲受人から輸入申告があつた場合にもその申告を受理し関税賦課の手続をとつていたものであるから、本件のような場合は一般関税対象品の輸入の場合と異なり、単に税関手続を経ないで免税自動車を譲り受けたという一事をもつて関税逋脱罪が成立すると解すべきでなく、譲受行為のほか関税を免れるために不正行為のあつたことを要する旨主張するのである。しかし以上のいずれの見解によつても、被控訴人が本件自動車の所有権を取得したのが、山田、影山らの前掲犯罪成立以後であることは、上記認定の事実関係からみて明らかであるから、被控訴人を目し旧関税法第八三条第四項の「反則当時の貨物の所有者」とすることはできないものといわざるを得ない。

(谷本 堀田 野本)

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